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5/0/2/3/儀護祈黙伝星廃祈詠
清冽に響き渡る刃鳴りの音が好きだ。
それが己の右手から離れたイメージの産物であっても、心の臓を通して残響がダイレクトに伝わってくる。
日毎に衰える母。父兄弟に突き放された記憶。プライドの込もった目でしか他人と触れ合えない、己の弱さ。
そんなどうしようもない雑念に悩まされる時間を、剣舞はほんの少しの間でも刈り取ってくれる。
事決勝戦に至って、彼女の胸中は冷えていた。
歓びと怯えがない混ぜに沸き起こり、喉が不快に渇く。
試濁を始める。頭の中に、古江燈矢その人が現れる。4組にして相当の使い手。
結論を導き出す頃には、時計は既に危うい時刻を指していた。
錬り上げた途心は、腰に携えた堅固な鞘。
その身と剣を守り、切っ先ひとつ触れさせぬように。
友人K
5/0/1/5/護熱全振三重導星
燈矢は舞い上がっていた。
ちょっと印象に残る程度の活躍ができればいいや、くらいにしか考えていなかった彼からしてみれば決勝戦進出という結果は正直なところ想定外であった。
開会式のアリスの演説を思い出す。
『わたしたちはただ、動きたいだけなのに。生きたいだけなのに。息をしたいだけなのに! あるべきように駆動したいだけなのに!』
―――そう。始めはただ、モテたかった。女の子にちやほやされて生きたいだけだった。息をするように女の子と付き合いたいだけだった!あるべきようなイケメンでありたいだけだった!
しかし。
今や燈矢は舞い上がっていた。勝利の興奮と決勝戦の緊張で正常な判断力を失っていた。当初の目的と目前の対戦相手が重なり、混ざり合ってしまっていた。
『でも残念、それが出来るのは強い人だけなんですけどね!』
―――オレは強い。少なくとも今日のオレは誰よりも強かった!出来る!きっと出来る!
「…そうだ!この戦いに勝ったら!仙王寺に告白しよう!
オレが勝利したらば、きっとあいつもオレの強さに惚れるに違いない!
シンガブロッダさんも確か『勝者は敗者を好きにできる』的なことを言ってたし!
うん!完璧なプラン!」
燈矢は仙王寺戯曲に思い人がいるという噂があること、そしてまたこの流れが一般に死亡フラグと呼ばれることを知らなかった。臆病だが単純な彼にとってこのことは幸せだったのか、不幸だったのか。
10面ダイス
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